第1章 自然療法は特別な療法ではありません
自然療法は、決して特別な人のための“新しい療法”ではありません。
私たちの祖父母世代の生活を想像してみてください。
今よりもずっと不便で、文明も医療技術も発達していなかった時代。
人々は自然と調和し、限られた資源のなかで暮らしを営んでいました。
持続可能な社会とは、まさにそうした時代の日常そのものを指していたのです。
特に離島や山間部、いわゆる「無医村」では、医者にかかる機会が少なく、暮らしのほとんどが自然療法に支えられていました。
野に咲く薬草、台所にある食材、母親の手の温もり――それが人々の薬箱だったのです。



最も古い自然療法 ― 手当て

自然療法の起源をたどると、人類の歴史のごく初期にまでさかのぼります。
最も古い自然療法は「手当て」だと言われています。
子どもが転んで泣いたとき、母親が手を当てて「痛いの痛いのとんでけー」と声をかける。
それだけで不思議と痛みが和らいだ経験はありませんか。
手のぬくもりは、心を落ち着け、体の緊張をゆるめる力を持っています。
科学が進んだ今もなお、その効果は誰も否定できません。
「薬」という文字が語ること

薬という漢字をよく見ると、草冠に「楽」と書きます。
「薬」とは本来、自然の草(薬草)が人を楽にするもの、という意味を持っていたのです。
薬草療法の歴史は有史以前にまでさかのぼります。
古代の人々は直感や経験を通して、身の回りの植物の効能を見つけ出しました。
痛みを和らげる葉、熱を下げる根、心を落ち着ける花…。
こうして、自然と人の知恵が積み重なり、今日に伝わる伝統療法となったのです。
人の心と自然の力
愛する人との離別、死別など、心を持つ人が人生を歩めば、心が壊れそうなくらい辛い出来事に遭遇することがあります。そんな時、親身に話を聴いてくれる人の存在に救われる事があります。

昔の人々は現代人よりも、もっと素直に泣き、怒り、そして祈り、歌い、喜びを表現していました。
それは決して特別なことではなく、“人として自然に生きる姿”だったのです。
私たちは文明の発展とともに、便利さや快適さを手に入れました。
しかしその一方で、本音を語ったり、自然体で泣き、怒り、祈り、喜ぶという人間らしい営みをどこかに置き忘れてきたのかもしれません。


自然療法は、人が人らしく生きてきた古代の知恵を、今に引き継ぐもの。
忘れていた“本来の自分”を取り戻すための、身近でやさしい方法なのです。
