
眠りたいのに眠れない。
身体は疲れているのに、心だけが静まらない。
不安、緊張、悲しみ、後悔――。
さまざまな思いが頭の中を巡り、夜だけが静かに過ぎていきます。
そんな張りつめた心に、古くから寄り添ってきた植物のひとつが、パシフローラです。
パシフローラとはどんな植物?

パシフローラ(Passiflora incarnata)は、中央アメリカから南アメリカを原産とするトケイソウ科のつる性植物です。
日本では「西洋トケイソウ」とも呼ばれ、時計の文字盤を思わせるような、美しく独特な花を咲かせます。
しかし、この植物が「Passion Flower(パッションフラワー)」と呼ばれる理由は、その美しさではありません。
ここでいう「Passion」は、「情熱」ではなく「受難」を意味します。
16世紀、中南米を訪れた宣教師たちは、この花の姿にキリストの受難を重ねました。
三つに分かれた柱頭は十字架を打ち付けた三本の釘、副冠は茨の冠、巻きひげは鞭、花全体は十字架上の出来事を象徴すると考えられ、「受難の花(Passion Flower)」という名前が付けられたのです。
ここでいう「受難」とは、単なる苦労や試練ではありません。
人生の中で避けることのできない喪失、悲しみ、不安、孤独、そして理不尽な出来事を抱えながら、それでも歩み続ける人間の姿を表しています。
その名前の由来は、この植物が古くから「心の静けさ」と結び付けられてきた理由とも重なっているように感じられます。

伝統的な利用

パシフローラは、古くからヨーロッパや北米のハーブ療法において、神経の高ぶりや精神的な緊張、不安、不眠などに対して伝統的に利用されてきました。
ドイツの薬用植物評価書「コミッションEモノグラフ」では、精神的不安、神経症、不眠などに対する伝統的な利用が紹介されています。
また、穏やかな鎮静作用や鎮痙作用をもつハーブとして、現在でも世界各地で広く親しまれています。
マザーチンクチャー(MT)としての位置づけ

パシフローラのマザーチンクチャーは、開花期の地上部から作られます。
自然療法では、心と身体が休むことを忘れてしまったような状態や、神経が張りつめ、力を抜けなくなっているような状態との関わりが深い植物として用いられてきました。
緊張が続き、眠ろうとしても心だけが静まらない。
考え続けてしまい、安心して休むことができない。
そのような「休みたいのに休めない」という状態に寄り添う植物として知られています。
現代の研究

パシフローラは、伝統的な利用だけでなく、現代の研究でも神経系への働きが数多く検討されている植物です。
欧州医薬品庁(EMA)は、Passiflora incarnata(パシフローラ)の地上部について、「軽度の精神的ストレスの緩和」と「睡眠を助ける目的」での伝統的植物医薬品として位置づけています。これは長年にわたる使用実績に基づく評価であり、欧州では伝統的ハーブとして広く利用されています。
また、近年のシステマティックレビューでは、パシフローラが不安やストレスに関連する症状の軽減に役立つ可能性が示されており、複数の臨床試験では、不安感の軽減や睡眠の質の改善が報告されています。一方で、研究の規模や方法には違いがあり、さらなる質の高い研究が期待されています。
パシフローラには、フラボノイド類をはじめとするさまざまな植物成分が含まれており、これらが複合的に働くことで、古くから伝えられてきた利用と関係している可能性が研究されています。
植物からのメッセージ
パシフローラは、苦しみを静けさへ変えていく植物。
参考文献・参考資料
- 欧州医薬品庁(EMA)「パシフローラ(Passiflora incarnata)ハーブモノグラフ」
- アメリカ国立医学図書館(PubMed)「パシフローラ(Passiflora incarnata)の神経・精神疾患における役割 ― システマティックレビュー」
- (書籍)『ハーブ・マザーチンクチャー φ』
※ 事典としての注意
- 本ページは、植物の伝統的な利用や一般的な特徴を紹介するものです
- 医療行為や治療を目的としたものではありません
- 体調や使用に不安がある場合は、専門家または医療機関にご相談ください
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